第1087話のサブタイトルとなった「軍艦バッグ」は、ガープとクザンの関係性を語る上で最も美しく、同時に哀しい伏線回想として描かれました。元海軍本部准将ブランニューの口から語られたその内容は、海軍基地の片隅に遺棄された2隻の巨大な軍艦の残骸にまつわるエピソードです。
その軍艦の装甲板は、まるでサンドバッグのように巨大にへこみ、ひしゃげていました。驚くべきは、その傷跡が「一切の悪魔の実の能力を使わず、武装色の覇気すら纏わず、ただ素手の拳のみで殴り続けられた結果」であるという点です。ガープが長年日課としていたこの異常な基礎鍛錬に、若かりし頃のクザンが弟子入りを志願し、並んで軍艦を殴り始めた過去が明かされました。
この回想が挟まれたことで、読者はクザンの肉体的な強さが悪魔の実「ヒエヒエの実」だけに依存したものではなく、ガープ直伝の暴力的なフィジカルに基づいていることを知りました。それと同時に、かつて同じ音を響かせて軍艦を殴り合っていた二人が、なぜ今命を削り合って殴り合わなければならないのかという悲壮感が極限まで高まりました。クザンが黒ひげ海賊団に加盟した経緯には、パンクハザードでの赤犬(サカズキ)との決闘に敗れ、自らの「正義」を既存の海軍組織の外で見つめ直そうとした背景があります。二人の拳の交錯は、決して憎悪によるものではなく、互いの信念を譲れない男たちの対話そのものでした。