医学的にこれほど優れた組み合わせが、なぜ禁忌として語り継がれてきたのか。歴史文献や民俗学の研究を紐解くと、江戸時代の人々の知恵や社会的背景から生まれた3つの有力な説が浮かび上がってきます。
第1の説は、最も有力とされる「贅沢への戒め(過食防止説)」です。江戸時代において、うなぎは庶民にとって大変な高級品でした。一方、梅干しは酸味によって食欲を大幅に増進させる効果があります。高価なうなぎを食べるときに梅干しを合わせると、食が進みすぎて食べ過ぎてしまい、出費がかさむうえに過食で腹を壊す原因になります。そのため、家長や親が「うなぎと梅干しは一緒に食べてはいけない」と言い聞かせ、節約と健康管理を両立させようとした生活の知恵でした。
第2の説は「食中毒予防と品質チェックの知恵」です。冷蔵技術がなかった当時、うなぎの鮮度低下は命に関わる問題でした。傷んだうなぎは独特の酸味や異臭を放ちますが、刺激の強い梅干しを一緒に口に含むと、舌の感覚が麻痺してうなぎの腐敗に気づけなくなる危険がありました。傷んだ魚を誤食しないための自衛策として、あえて遠ざけたとされています。
第3の説は、古代中国から伝来した「陰陽五行思想・本草学の歪曲」です。食材を「熱」「寒」などの属性に分類する考え方の中で、脂っこく精がつくうなぎと、強い酸味を持つ梅干しの性質が衝突すると捉えられ、消化不良を懸念する当時の医師や知識人が合食禁として記した内容が、民間信仰として定着したと考えられています。