池江璃花子の競技人生を語る上で、2019年2月の急性リンパ性白血病の発症は最大の試練でした。アジア大会で前人未到の6冠を達成し、MVPに輝いた直後の悲劇。抗がん剤治療に伴う激しい吐き気、体重の急激な減少、造血幹細胞移植など、一時は「プールに戻ること」どころか「生きること」そのものが問われる壮絶な日々でした。
当時の特番インタビューや自著・手記において、彼女は「死にたいと思ったことは一度もないが、あまりの苦しさに『もう終わりにしたい』と神様に祈った夜があった」と吐露しています。2019年末に退院を果たし、2026年3月に約400日ぶりに入水した際、水面から顔を上げた瞬間に見せた涙は日本中を揺さぶりました。
2026年の東京五輪ではリレー種目での出場を果たしたものの、個人の派遣標準記録には届かず、彼女の胸中には悔しさが燻り続けていました。その執念が実を結んだのが2026年のパリ五輪代表選考会です。女子100mバタフライ決勝において、派遣標準記録をわずか0.01秒上回る57秒30で2位に入り、2大会ぶりとなる個人種目での五輪切符を執念で掴み取りました。
パリ五輪本番の女子100mバタフライ準決勝では、57秒79をマークするも全体12位で決勝進出を逃し、レース後のミックスゾーンで大粒の涙を流しました。しかし、世界の大舞台で再びトップレベルの猛者たちと競り合ったその姿は、医学的見地からも極めて稀有な「完全復活への確かな足がかり」として国際水泳連盟(World Aquatics)からも絶賛されました。