首の血管損傷リスクは、怪しげな整体院の個室だけで起きるものではありません。日常生活の身近なシチュエーションにも、深刻な落とし穴が潜んでいます。
その筆頭が、美容室でのシャンプー時に発症する「美容院脳卒中症候群(Beauty Parlor Stroke Syndrome)」です。シャンプー台の硬い陶器の縁に首の後ろを預け、首を大きく反らせた(過後屈)状態で長時間固定されると、頸椎の骨と骨の間で椎骨動脈が圧迫され、脳幹への血流が一気に滞ります。施術中や施術後に、激しいめまい、吐き気、手足のしびれ、視界の揺れを感じ、そのまま脳梗塞へと進行するケースが医学論文でも多数報告されています。美容室で首に強い痛みや圧迫感を覚えた場合は、我慢せずにクッションの位置調整を申し出ることが身を守る第一歩です。
さらに現代特有の危険として急増しているのが、家庭用マッサージガン(筋膜リリースガン)の首への使用です。毎分2000〜3000回もの高速ピストン振動を筋肉に叩き込むこの器具は、太ももや臀部などの大きな筋肉には有効ですが、首周りへの使用は医学的に厳禁とされています。
マッサージガンの打撃が首筋の動脈を直撃すると、薄い血管壁に微小な亀裂(解離)を生じさせたり、動脈硬化によって付着していたプラークを瞬時に剥がして脳へと飛ばしてしまうリスクがあります。多くの優良メーカーの取扱説明書には「頸部・頭部・関節部への使用禁止」が明記されていますが、取扱説明書を読まずに「首こりがひどいから」と喉仏の横や後頭部のキワに直接当ててしまうユーザーが後を絶ちません。マッサージガンを首に当てる行為は、自ら脳梗塞の引き金を引くようなものだと認識すべきです。