国土面積で見れば日本の約8割(約30万平方キロメートル)に過ぎないイタリアが、なぜこれほど膨大な世界遺産を抱えているのでしょうか。その背景には、地理的・歴史的要因に加え、国家としての周到な文化財戦略が存在します。
第1の理由は、地中海世界の中心として栄えた「重層的な歴史遺産の集積」です。
古代ローマ帝国の繁栄、キリスト教カトリックの総本山としての発展、そして中世から近世にかけてフィレンツェやヴェネツィアなどの都市国家が花開かせたルネサンス文化。イタリア半島全土に、時代ごとの最高峰の建築物や芸術作品が重層的に残されており、国土そのものが巨大な野外博物館と化しています。
第2の理由は、遺産を「点」ではなく「面」で登録する卓越した推薦技術です。
イタリアの登録遺産を見ると、「ローマ歴史地区」「フィレンツェ歴史地区」「ヴェネツィアとその潟」のように、街全体を一括して登録するケースが目立ちます。さらに近年では、「トスカーナのオルチャ渓谷」や「ピエモンテのブドウ畑景観」など、人間と自然が育んだ文化的景観の分野でも積極的な登録を成功させています。
第3の理由は、憲法に文化財保護を明記するほどの「国家的な保全体制」です。
イタリア共和国憲法第9条には「国は景観ならびに国民の歴史的・芸術的遺産を保護する」と明記されており、世界でも最も厳格な文化財保護法制と専門修復機関を有しています。ユネスコ設立当初から専門家を送り込み、推薦書の作成ノウハウを蓄積してきた歴史的アドバンテージも首位維持の大きな原動力です。