日本の精神分析学の第一人者である土居健郎は、著書『甘えの構造』などで、日本人の心理的特性と対人コミュニケーションの深層を解き明かした。土居の議論において、「甘え」の心理と「建前・本音」の使い分けは切り離せない関係にある。
土居によれば、日本人は他者との一体感を求める「甘え」を根底に持ちながらも、公の場では建前を用いることで自他の境界線を保とうとする。建前があるからこそ、人は過剰な摩擦から自分と相手を守ることができる。本音をさらけ出すことだけが誠実さではないという独自の倫理観が、ここには働いている。
日本社会心理学会の研究でも、デジタルツールを介した現代のコミュニケーションにおいて「意図的な建前」がチームの心理的安全性を維持するクッションとして機能している実態が報告されている。土居の提示した理論枠組みは、半世紀を経た現代のビジネス環境においてもなお強い示唆を与え続けている。