日本の食文化史において、長年にわたり対比され称賛されてきた二つの峰がある。東京・銀座の「すきやばし次郎」を率いる小野二郎氏と、西の頂点として名高い森田一夫氏だ。「東のすきやばし次郎、西の小松弥助」という言葉は、単なる東西の対立軸ではなく、江戸前鮨・和食文化が到達した最高峰の美学を象徴するフレーズとして定着している。
小野氏の鮨が緊迫感溢れるストイックな幾何学的美学を持つとすれば、森田氏の握りは「温もり」と「歓喜」に満ちあふれている。シャリとネタが口の中で同時に解け、素材の旨味が爆発的に広がる。どちらも至高でありながら、対極の魅力を放つ。この二人の巨匠の存在こそが、近代日本の鮨文化を世界レベルの芸術へと押し上げた原動力に他ならない。