心肺蘇生法の中核をなすのが胸骨圧迫(一般に心臓マッサージと呼ばれる処置)です。心臓を胸骨と背骨の間で挟み込むように物理的に押し潰し、脳へ血液を強制的に送り出すメカニズムであるため、正しいフォームと力加減が求められます。
圧迫する正しい位置:
胸の左右真ん中にある平らな骨(胸骨)の下半分、目安として左右の乳頭を結ぶ線の中央です。手のひらの付け根(手掌基部)をこの位置に当て、もう一方の手を上に重ねて指を組みます。指先が肋骨に当たって余計な圧力が分散しないよう、指を浮かせることが肝要です。
押す深さと姿勢:
成人の場合、胸が約5cm沈み込むまで垂直に体重をかけて強く圧迫します。5cmの感覚は、一般的な単3形乾電池の長さとほぼ同じです。肘をピンと真っ直ぐ伸ばし、傷病者の胸の真上に自分の肩が来るようにポジショニングして、上半身の体重を真上から落とし込みます。腕の筋力だけで押そうとすると数分で疲弊するため、体重を預ける感覚が必須となります。また、押し込んだ後は胸が元の高さに戻るまで完全に力を抜く「リコイル(圧迫解除)」を怠ってはいけません。胸が戻る瞬間に心臓へ血液が再び充填されるためです。
圧迫テンポとアンパンマンのリズム:
圧迫の速度は1分間に100〜120回のペースを保ちます。このハイテンポを維持する合言葉として救命講習でも広く親しまれているのが、国民的アニメソングの『アンパンマンのマーチ』です。同曲のテンポ(BPM)は約100〜103であり、曲のリズムに合わせて頭の中で「そうだ、おそれないで、みんなのために〜」と歌いながら圧迫を刻むと、理想的なリズムを驚くほど正確にキープできます。洋楽であればBee Geesの『Stayin' Alive』もBPM103前後で世界的に推奨されています。
胸骨圧迫は想像以上に過酷な全身運動です。成人の胸を5cm押し続けると、1〜2分で術者の筋力は消耗し、無意識のうちに押し込みが浅くなります。周囲に協力者がいる場合は、テンポを乱さないよう「1、2、3……」と声を掛け合い、1〜2分(約200回)ごとに交代しながら絶え間なく押し続ける体制を作りましょう。