工房の顧客名簿をめくると、意外な事実に気づく。かつてこうした高級手仕事鞄の主な買い手だった富裕層の年配客に混ざり、20代から30代前半の若い世代の名前が急速に増えているのだ。
「デジタルネイティブの世代ほど、傷がついたり色が深くなったりすることに感動するんです」と、接客を担当するスタッフは語る。画面の中のデータは劣化しない代わりに、自分とともに年を取ることもない。爪で引っ掻いた跡、雨ジミ、手の油で飴色に変わっていくハンドル。そうした不可逆な変化こそが、自分がこの世界に確かに生きているという実感をくれるのだという。
親から譲り受けた古い鞄の修理を依頼しに来る大学生も珍しくない。新品のピカピカした状態よりも、使い込まれてクタクタになった革の佇まいにこそ、本当の価値を見出す美意識が完全に定着した。