本作の制作陣には、昭和歌謡界を代表する2人の巨匠が名を連ねています。作詞を手がけた宮川哲夫氏と、作曲・編曲を担当した宮川泰氏。血縁関係のない「ダブル宮川」コンビが手がけたこの楽曲には、随所に斬新なアプローチが散りばめられていました。
当時、宮川泰氏は『宇宙戦艦ヤマト』のテーマや『シャボン玉ホリデー』、ザ・ピーナッツの一連のヒット作で知られるジャズ・ポップス界の寵児でした。ビクター専属の歌謡曲歌手であった橋幸夫に、渡辺プロダクション系のポップス作家であった宮川泰氏を起用したことは、当時のレコード会社の専属作家制度の壁を打ち破る極めて画期的な試みでした。
制作当時の手記やインタビューによると、宮川泰氏は「単なる哀しい演歌には絶対にしない。8ビートの現代的な躍動感の中に、凍りつくような冷たい哀愁を同居させる」という明確なコンセプトを持って作曲に臨んだと語られています。イントロの印象的なエレキギターのオブリガートと、流麗なストリングスが織りなすサウンドは、今聴いても一切の古さを感じさせません。
音楽理論から紐解く『霧氷』のコード進行と転調の妙
『霧氷』の音楽的魅力の核心は、その洗練されたコード進行にあります。短調(マイナーキー)を基調としながらも、サビに向けて平行長調(メジャーキー)の色彩を巧みに差し込むことで、主人公の胸に去来する「愛の未練」と「冷徹な現実」のコントラストを見事に描き出しています。
演歌特有のコブシや重厚なヨナ抜き音階に頼ることなく、洋楽ポップスの洗練されたテンションコードやベースラインのクリシェ進行を採用。これにより、哀切に満ちたメロディでありながらも軽快なドライヴ感を失わない、独自のグルーヴが生み出されたのです。