長年、「心臓が止まり脳血流が途絶えれば、意識は即座に消失する」というのが医学界の絶対的な定説でした。しかし、近年の蘇生医学や神経科学の大規模調査は、その常識に決定的な修正を迫っています。
ニューヨーク大学グロスマン医学部が主導する国際的な心肺蘇生研究「AWARE-II研究」の最新解析データによると、心停止から蘇生した患者の約20〜40%が、臨床的に心停止状態にある間に明晰な思考や記憶の知覚を経験していたことが判明しました。さらに、蘇生処置中の患者の脳波をリアルタイムでモニタリングした結果、心停止後最大30分〜60分が経過しても、高度な認知活動を示すガンマ波バーストが断続的に記録される事例が報告されています。
脳科学の観点からは、こうした現象を説明する複数の仮説が提唱されてきました。代表的なものが以下のメカニズムです。
- エンドルフィン及びDMT(ジメチルトリプタミン)の大量分泌:死の直前、激痛や恐怖を緩和するために脳内で内因性幻覚物質や鎮痛物質が一気に放出され、深い多幸感や光のヴィジョンを生み出すという説。
- 側頭葉・頭頂葉の血流低下:自己と外部世界の境界を司る頭頂葉の機能が低下することで、肉体から意識が抜け出たように感じる「体外離脱」の感覚が引き起こされるという説明。
一方で、患者が「蘇生中に医師が交わした会話の内容」や「処置室に置かれていた特殊な器具の形状」を正確に言い当てる事例など、単なる脳内幻覚では説明がつきにくい客観的証言も数多く記録されており、科学者の間でも議論が続いています。