1990年代半ば、アメリカのヒップホップシーンはEast Coast Hip HopとWest Coast Hip Hopの血で血を洗う抗争の渦中にあった。1996年9月にトゥパック・シャクールがラスベガスで暗殺され、そのわずか半年後の1997年3月9日、ロサンゼルスでノトーリアス・B.I.G.が何者かによって射殺された。享年24。あまりにも早すぎる死だった。
主柱を失ったBad Boy Recordsは壊滅の危機に瀕していた。ショーン・コムズはスタジオに籠もり、深い喪失感を音に昇華させることだけを選んだ。そうして完成したのが、自身のデビューアルバム『No Way Out』である。『I'll Be Missing You』はそのリードシングルとして、傷ついたヒップホップコミュニティ全体を癒やす賛歌として世に送り出された。怒りを報復に向けるのではなく、哀悼と祈りへ昇華させたこの選択が、当時の荒廃したシーンにどれほどの救いをもたらしたかは計り知れない。