東京・南青山の片隅にあるギャラリー。そこに飾られた一枚の絵画が、目の肥えたコレクターたちの足を止めさせている。
タイトルは「境界線」。
激しい赤と、それを包み込むような深い青。二つの色彩が中央で激しく衝突し、溶け合っている。一見するとモダンな抽象画だが、その筆跡にはどこか焦燥感と、それを乗り越えた先の諦念のようなものが同居する。
ギャラリーを訪れた美術評論家は「この絵には、言葉にできなかった強烈な感情の澱(おり)がそのまま定着している」と評した。そして、その「言葉にできなかった感情」の矛先が、かつての恋人である塩谷瞬に向けられているのではないかという噂が広まるのに、そう時間はかからなかった。