時代が平成から令和、そして現在へと移り変わる中で、正賞の時計は数々の歴史的瞬間を見守ってきた。お笑い芸人・又吉直樹の『火花』が受賞した際には、メディアの取材攻勢やNHKの特別番組などで文学界全体が大揺れとなったが、授与式で彼がその重量感溢れる時計を静かに受け取る姿は大きな話題を呼んだ。
歴代の受賞者の中には、「執筆で行き詰まった時にこの時計を眺め、背筋を伸ばす」「大切な装飾品として書斎のデスクに飾っている」と語る作家も多い。出版業界がデジタル化や電子書籍の普及によって急速な変化を遂げる中でも、物理的な物体として手元に残る懐中時計は、作家としてのアイデンティティを支える不動の錨(いかり)となっている。