鋸山が持つ独特の鋸の歯のような山容は、長年にわたる採石作業によって削り取られた人工の美だ。しかし、この山が放つ静謐な気配の源流は、千年以上前に遡る深遠な信仰の歴史にある。山内に広がる乾坤山日本寺は、神亀2年(725年)に聖武天皇の勅願を受けた高僧・行基によって開山された関東最古の勅願所であり、古くから修験道の霊場として多くの修行者が足を運んだ。
境内には、のちに弘法大師も訪れ修行を行ったという伝説が残り、岩肌に刻まれた千五百羅漢や巨石をくり抜いた薬師瑠璃光如来(大仏)など、山全体が巨大な聖域となっている。単なる観光地の枠を超え、石切職人たちの汗の歴史と密教の神秘が重なり合ったこの空間は、訪れる者の心を揺さぶる独特の雰囲気を今なお醸し出している。