歴代長者番付推移を振り返る際、多くの日本人が抱く「なぜ昔のように税務署から長者番付が発表されないのか」という疑問には、制度変更の大きな節目が存在します。
1947年に導入された「高額納税者公示制度」、いわゆる高額納税者番付は、所得税の適正な申告を促す名目で毎年5月に全国の税務署で貼り出されていました。昭和から平成初期にかけて、松下幸之助氏のような大実業家だけでなく、人気アイドルやプロ野球選手、ベストセラー作家の実名と納税額が新聞紙面を大々的に飾った光景を記憶している世代も少なくありません。
しかし、この制度は2005年(平成17年)の税制改正により、2006年の公示を最後に廃止されました。高額納税者番付廃止理由の根幹にあったのは、以下の3点です。
- プライバシー保護意識の高まり:個人情報保護法の施行(2005年全面施行)に伴い、国家機関が個人の所得規模を公表することに対する法的一貫性の欠如。
- 犯罪被害の激増:番付に載った著名人や会社経営者の自宅が空き巣や強盗に狙われ、身代金目的の誘拐未遂や悪質な脅迫状が送りつけられる治安上の実害。
- 富裕層の海外流出と資産隠し:名指しで公表されることを嫌忌した資産家がシンガポールやスイスなど国外へ居住地を移転させるトリガーとなったこと。
現在世に出ている「長者番付」は、公的機関の納税リストではなく、フォーブスをはじめとする専門調査機関が上場企業の有価証券報告書、不動産登記、非上場株の評価額、配当利回りなどを独自に積算した「推計保有資産」です。所得税という単年度のフローではなく、株式や不動産というストックがランキングの決定要素となったことで、資産の概念そのものが変容しました。