日本を代表する心理学者の河合隼雄は、ユング心理学の観点から日本の昔話や児童文学を深く考察した。代表作『桃太郎』を例にとってみよう。桃という生命力の象徴から生まれ、犬・キジ・サルという動物の伴侶を得て鬼ヶ島へ向かう構造は、子供の精神的な自立と無意識下の葛藤の克服をみごとに象徴している。
一見すると理不尽な試練や恐ろしい怪物との対峙は、子供の心の中にある不安や恐怖を安全な環境で処理するためのカタルシス(精神の浄化)をもたらす。親の温かい声を守り神としながら恐ろしい物語に触れることで、子供は「乗り越えられる」という心理的安全性を獲得する。これこそが、創作童話にはない古典昔話ならではの強靭な心理的知育効果なのだ。