アイザック=ネテロというキャラクターの魅力は、単なる「正義の味方」や「好々爺」にとどまらない、底知れないエゴイズムと人間臭さにあります。社会心理学の視座から分析すると、ネテロは人生の晩年において「個人の武の探求」と「最高責任者としての社会的責任」という強烈な二律背反を抱えていました。
ネテロは本心では「自身を脅かすほどの強敵と全霊で殴り合いたい」という純粋な狂気を抱いており、メルエムという天敵の出現に狂喜していました。しかし同時に、ハンター協会会長として人類の存亡を背負う冷徹なリアリストでもありました。この「個人のエゴ」を満たしながら「種としての責任」を完遂するために用意されたのが、貧者の薔薇という最悪の保険でした。
どれほど崇高な精神や神聖な祈り(百式観音)を極めようとも、最終的に怪物を討ち滅ぼしたのは人類が技術的に生み出した安価な大量破壊兵器の毒であったという皮肉。冨樫義博氏がネテロを通じて描いたのは、生物としての美しさを凌駕する「人間の底知れない業と悪意」そのものだったといえます。