伝説の王の終幕は、あまりにも静かで、あまりにも野生に満ちていた。2013年の冬、推定35歳(人間換算で100歳以上)を迎えていたベンツは、餌場からふらりと山中へと姿を消した。大分市高崎山自然動物園のスタッフや関係者が総出で山林を捜索したものの、その痕跡を見つけることはできなかった。
ニホンザルのオスは、自らの死期を悟ると群れから離れ、人知れず静かに息を引き取る習性がある。ベンツもまた、かつての仲間たちに衰えゆく無様な姿を晒すことなく、尊厳を保ったまま一人で山へと還っていった。2014年1月、動物園は彼の死亡を正式に認定し、異例のお別れの会が執り行われた。多くのファンや研究者がその死を悼み、山に向かって手を合わせた。
2026年現在の最新サル社会研究においても、彼のように天寿を全うする瞬間までリーダーとしての威厳を保ち、自ら幕を引いた個体は極めて稀であると再評価されている。衝撃的とも言えるその失踪劇は、彼が選んだ最後の美学だったのかもしれない。