自分の顔をちぎって飢えた者に分け与えるという、一見するとショッキングな行為。この特異な設定の根底には、原作者やなせたかし氏の壮絶な人生経験と、揺るぎない哲学が込められています。
やなせ氏は第二次世界大戦中、出征先で極限の飢えを経験しました。「正義のための戦い」と教え込まれていた大義名分が敗戦によって一瞬で覆ったとき、氏は痛感したといいます。「世の中の正義は時代や立場によって簡単に逆転する。しかし、飢えて苦しんでいる人に食べ物を差し出すことだけは、いかなる時代・国・立場であっても絶対に覆らない不変の正義だ」と。
スーパーマンのように傷一つ負わずに悪を倒すヒーローではなく、「自分自身を削り、傷つき、弱体化しながらも他者を助けるヒーロー」。アンパンマンの顔が交換可能なあんパンで構成されているのは、自らの身体の一部を分け与えて人を救うという究極の利他精神を具現化するための、必然的な構造だったのです。