落雷被害というと「数億ボルトの直撃を受けて即死する」というイメージが定着していますが、法医学および救急医学の記録が明かす実態は大きく異なります。国内外の救命統計によると、被雷者の死亡率は約20〜30%であり、実に約70〜80%の人が生還を果たしています。
なぜ人間は数万アンペア、数億ボルトという超高圧エネルギーを浴びて生き残ることができるのでしょうか。その科学的要因は「フラッシュオーバー(閃絡)現象」にあります。落雷の電流が人体に到達した際、電流の大部分が皮膚の表面や汗、濡れた衣服の外側を伝わって地面へと抜けていく現象です。体表を電気が走ることで服や靴は吹き飛び、全身に火傷を負うものの、心臓や脳などの生命維持器官を電流が直撃することを防ぎ、結果として命を取り留めるケースが多発します。
生還したからといって無傷で済むわけではありません。医学誌や生存者の手記では、想像を絶する過酷な後遺症が赤裸々に綴られています。
「一瞬にして視界が純白に染まり、次の瞬間には吹き飛ばされて地面に倒れていた。火薬の焦げた匂いと全身の激痛。命は助かったが、事故から何年経っても手足の痺れが消えず、記憶力や集中力が急激に途切れる脳の後遺症に苦しみ続けている」
――国内落雷事故生還者の証言手記より
被雷によって皮膚には毛細血管が破壊されて生じる樹枝状の赤いアザ「リヒテンベルク図形」が刻まれるほか、衝撃波による鼓膜の破裂、白内障などの視覚障害、不可逆的な中枢神経系の損傷、重度のPTSD(心的外傷後ストレス障害)など、後遺症の爪痕は被害者の人生を長期にわたって縛り続けます。